初めて「ママ」と言った日
生まれたとき、「この子も1年後にはおしゃべりするんだろうなぁ」なんて、のんきに思っていた。でも、そんな日は来ないまま10年。
私のささやかな夢は、声変わりする前の可愛い声で「ママ」と呼ばれること。もちろん、大人の声になってからでも嬉しいのは分かってる。でも、できれば初めての「ママ」は、あどけない少年の声がいいなと。
GENEは発語こそないけれど、GENE語はたくさん話している。奇声も多めで、むしろ静かだと心配になるくらい。その中の音をどうにか組み合わせて「ママ」って言ってくれないかなぁ。
そんなある日、
「あーー!あーー!」
遠くから大きな声で私を呼ぶGENE。甘い声ではない。何かを要求するための声。
「ママって言ってくれたら、やってあげるよ」
通じるはずがないと分かっているのに、私の心の声がつい口から出た。
そしたら。
「ママ」
えっ!?
あまりの驚きに、その日の要求はすべてスムーズに聞いてしまった。帰宅した夫にも、ちょっとしたドヤ顔で報告。
それからというもの、GENEは何か欲しいとき、
「ママ」
と言うようになった。時々、夫にも「ママ」と言うけれど、まぁ、そこはご愛嬌。
もしかして、学校でも言っているのでは?と思い、先生に聞いてみたら案の定。
「要求があるとき、ママって言ってますね」
おぉ…やっぱり。
でも、先生は素敵な提案をしてくれた。
「せっかく『ママ』と言えるようになったので、ご家庭ではそのままで。学校では、要求のときは『先生』って教えますね」
それ以来、学校では「ママ」と言わなくなったらしい。
果たしてGENEは、私が「ママ」だと認識しているのだろうか。
「ママ!」と叫びながら走ってくるわけじゃない。でも、何か欲しいときには「ママ」と言ってくれる。
私の夢は、確かに叶っている。
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